会長挨拶文 履歴

年月タイトル著者
2023年6月 コロナ後の甲虫学会 久保田耕平
2023年1月 新会長挨拶 久保田耕平
2022年12月 会長挨拶 (第12回 甲虫学会 総会) 大原昌宏
2022年9月 会長挨拶「甲虫学会に関わってきたこれまで」 大原昌宏
2022年5月 会長挨拶「コロナ禍は標本整理でやり過ごしましょう」 大原昌宏
2021年12月 会長挨拶(第 11 回 日本甲虫学会 総会) 大原昌宏
2021年7月 コロナ禍での学会活動できること、やれること、あれこれ 大原昌宏
2021年4月 コロナ禍での学会活動、研究、あれこれ 大原昌宏
2021年1月2020年度総会でのご意見 大原昌宏
2020年5月コロナ禍に思う 大原昌宏
2020年1月Elytra 表紙の魅力 大原昌宏
2019年12月会長挨拶(第 10 回 日本甲虫学会 総会) 大原昌宏
2019年10月日本の多様な甲虫学の発信を 大原昌宏
2019年5月会長挨拶(編集方針特徴) 大原昌宏
2019年3月新会長挨拶 大原昌宏
2018年9月科博で初めての特別展『昆虫』 野村周平
2018年4月マイクロCTの甲虫学への貢献 野村周平
2018年1月ベトナム・ピャオアク山の甲虫に再会 野村周平
2017年8月国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金)の甲虫相調査<速報編> 野村周平
2017年5月国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金)の甲虫相調査 野村周平
2017年1月コレステリック甲虫 野村周平
2016年10月東京港野鳥公園のリュウキュウツヤハナムグリ 野村周平
2016年6月INPA訪問 野村周平
2016年4月つくば実験植物園の甲虫:秋冬編野村周平
2016年1月2016 年度年頭のご挨拶野村周平
2015年10月つくば実験植物園の甲虫:春夏編野村周平
2015年9月長い和名のアリヅカムシ野村周平
2015年4月桜花と甲虫野村周平
2015年1月就任のごあいさつ野村周平
2014年10月第3期役員選挙を終えて新里達也
2014年7月選挙に投票を新里達也
2014年1月新しい年を迎えて新里達也
2013年10月秋は学会大会のシーズン新里達也
2013年4月ABS問題と甲虫研究者新里達也
2013年1月第2期を迎えて新里達也
2012年6月採集シーズン、そして選挙を控えて新里達也
2012年1月新年ごあいさつ新里達也
2011年1月真価が試される2011年を迎えて新里達也

2016~現在

ニュースレターに掲載しています。
https://coleoptera.sakura.ne.jp/newsletter/newsletter.html

ニュースレター創設前(~2015)の会長挨拶文を可能な限りで再録します(下記)


「つくば実験植物園の甲虫:春夏編」

 今年度から、科博付属のつくば実験植物園の昆虫相を調査しています。つくば実験植物園は茨城県つくば市の郊外にあり、その北側に科博の動物研究部、植物研究部があります。周囲は田畑や、クヌギ、シラカシなどの2次的な雑木林で、特に珍しい動植物が生育するような環境ではありません。しかし植物園なので、日本各地にみられる様々な植生が園内に再現されていて、植物の種類は大変豊富ですし、水生植物のために大きな池や浅い水域も作ってあるので、トンボなどの水生昆虫は豊富です。

 昆虫相調査は、まだ開始して半年もたっていませんが、面白い成果も出ています。春先にスギカミキリが脱出するスギの木があり、1本の被害木から3~4頭の成虫を採集できました。園の北側にやや細めのヤマグワの樹があり、クワカミキリがいくつか採集されています。園の南側の伐木の置き場には夏の盛りのころに、ヤマトタマムシが発生し、写真を多数とることができました(写真左)。バイオミメティクスの材料も確保することができました。園の中央に池があり、トンボやアメンボは多いのですが、水生甲虫はこれといったものがなく、十分な成果が出ているとは言えません。しかし一つだけ、イネネクイハムシ(写真右)が見つかっており、水域の環境は決して悪くないと思われます。園内には他にもさまざまな水域があるので、少し真面目にとり組んでみなくてはと思っております。
つくば実験植物園の甲虫2種.
左:ヤマトタマムシ;右:イネネクイハムシ.

2015年10月3日(日)

日本甲虫学会 会長 野村周平


「長い和名のアリヅカムシ」

 本年6月6~7日、初めて沖縄への遠征となった、国頭村「やんばる学びの森」での調査観察会に参加してきました。たくさんの会員と地元の有志の方々に参加いただき、たいへん盛会となりました。梅雨のさなかで天気は良くなかったのですが、皆それぞれに目的の虫があって、地元の方々と情報交換しつつ、採集にいそしんだり、虫談義に花を咲かせたりしました。私としてはこの会への参加は久しぶりだったのですが、事故もなく、楽しい思い出となりました。いずれ「さやばねニューシリーズ」に、担当幹事から報告があると思います。
 自分の虫としては、ライトトラップを毎晩設置して、灯火に飛来するアリヅカムシの採集にいそしみました。総じて種数や個体数は多くなかったのですが、6日に東海岸に設置したトラップで、タイワンヒゲブトエンマアリヅカムシとリュウキュウヒゲブトエンマアリヅカムシを1♂ずつですが採集できました。この2種はたがいに近縁ですが、どちらも低地性の、採集の難しい種です。特に後者は珍種ですが、和名が長い(19文字)ことでもアリヅカムシでは随一です。
沖縄県国頭村のライトトラップで採集された2種のアリヅカムシ.
左:タイワンヒゲブトエンマアリヅカムシ;右:リュウキュウヒゲブトエンマアリヅカムシ.
2015年9月29日
日本甲虫学会 会長 野村周平

「桜花と甲虫」

 さくらの花満開の候となりましたが、学会員の皆様にはいかがお過ごしでしょうか?もうすでに多くの方々が野山に入り、長い冬を越して動き始めた甲虫の姿に、胸を躍らせておられるのではないでしょうか。
 もう10年以上も前の話になりますが、春先に一斉に花開く桜の花にどんな昆虫が集まるのか、ということを調べるために、その頃開発していた高所FIT(Flight Interception Trap=衝突板トラップ)を、地上5m以上の桜の枝先に設置、回収したことがあります。そのような採集をしている人はその頃周囲に誰もいませんでしたので、何が採れるか、まずはやってみようという意気込みでした。
 東京西郊の桜の名所2か所に一週間ずつ6台のトラップを設置回収した結果、25科38種の甲虫が採集され、その中には東京都未記録の甲虫が3種も含まれていました。個人的には春先にしか出現しないナエドコチャイロコガネやキベリハバビロオオキノコムシが多数採集されたのが、大変うれしく感じられました。この時の成果は野村(2010)(月刊むし(475): 22-31)に詳しく発表しています。
2004年4月、八王子市滝山公園の桜枝上に設置された高所FIT
2015年4月6日
日本甲虫学会 会長 野村周平

「就任のごあいさつ」

 このたび、第3期(2015-2016)の会長を仰せつかりました、国立科学博物館の野村です。浅学菲才の身でありながら、多数の会員の皆様からご推挙いただき、大変名誉ある役目をお引き受けすることになりました。行き届かない点が多数発生するのではないかと、大変心配しておりますが、新里前会長はじめ、役員、学会員の皆様のお引き立てをいただけますよう、どうかよろしくお願いいたします。
 皆様すでにご存じのように日本甲虫学会は、合併後新たに再スタートしてから5年目に入ります。本学会はこれまで常にわが国の甲虫学界をリードしてきました。しかし今般、わが国の甲虫学界を取り巻く状況は、激しく流動しています。具体的には、これまで個別的でよかった甲虫の分類研究が、世界の他の研究者との協同、研究材料の産出国との調整、甲虫分類学だけではなく他の学術分野あるいは社会の中での各分野との調和を求められています。
 このような社会の流れの中にあっても、本学会が変わらず日本の甲虫学界ひいては昆虫学界に調和し、貢献することができるよう、そしてそのような場での学術研究を変わらずリードしていけるような活動に取り組んでいきたいと考えております。学会員の皆様におかれましては、今後とも本学会の活動に厳しいご指導、ご鞭撻をいただくとともに、変わらぬご協力を賜りますよう、改めてよろしくお願い申し上げます。

2015年1月7日
日本甲虫学会 会長 野村周平

「第3期役員選挙を終えて」

 毎年のことながら異常気象が取りざたされています。今年は7月半ばくらいまでは何とか持ちこたえていたものの、8月に入ると長雨が多くなり、例年のような残暑もなく、そのまま暦通りの秋になってしまったようです。東京あたりではお彼岸はまだ半袖が当たり前のように思っていましたが、久しぶりに秋らしい服装で外出したものでした。私自身は研究よりも採集調査の1年だったので、こうした天候不順にはたびたび泣かされました。それでも1ヶ月近いフィールドを無事こなし、それなりの成果を挙げることができました。
 秋たけなわのこれからの季節は、昆虫関係の例会や大会のスケジュールが目白押しで、週末の日程調整に悩まされることになります。私も主に甲虫関係の会合で11月末から年内いっぱいの土日はすべて埋まってしまいました。その皮切りが、11月22~23日の本学会の倉敷大会となります。大勢の皆さんのご参加を期待しております。倉敷の大会実行委員会では、楽しい企画を盛りだくさんに用意されているようです。
 第3期の役員選挙は8月26日に開票を行い、すでにその結果を学会ホームページに公表させていただいております。この選挙では選挙手続き上の不備が発覚し、会員の皆様にはご 心配をおかけすることになりました。この不備というのは、被選挙権がない評議員候補が失格になったことで、詳しくは選挙管理委員長からホームページ上で経緯をご説明させていただいております。この場を借りて私からも皆様にお詫びを申し上げます。
 ともあれこの選挙では、新会長に野村周平さんが当選され、新旧交代を含む次期評議員が選出されました。私も2010年秋以来4年余り会長を務めてきましたが、ようやく若い世代にバトンタッチをすることができます。改革を目指していた割にはたいしたこともできず志半ばの思いですが、その少し先には重圧から解放される安堵感があるのも嘘ではありません。とはいえ、まだ年末までの任期中は、やり残した仕事をすべて片付けてしまう勢いで力を尽くします。もちろん立場は違えどこの先も、学会運営に貢献していく意志が迷うようなことはありません。

2014年10月12日
日本甲虫学会会長 新里 達也

「選挙に投票を」

 6月最後の1週間は台湾東部に採集に行ってきました。ここ5年来恒例になりますが、忙しい職場を離れて、異国の山中でのんびりとネットを振ってきました。目的はこれと言ってないのですが、条件のよい吹き上げが見つかり、ネキダリス(ホソコバネカミキリ類)2種を採集することができました。私は虫採りがヘタだとよく影口を叩かれますが、その私でも採れたのですから、そこが如何に素晴らしいポイントであるか、御察しいただけるかと思います。
 そういえばこの台湾行きの数日前に、沖縄島でネキダリスの新種が発見されたというニュースが飛び込み、度肝を抜かれました。琉球列島にこの仲間が分布することは以前より予想されていたのですが、これまでに数多の甲虫猛者が高頻度で調査をされてきた地域だけに最大級の驚きを禁じえません。ナンシャンホソコバネカミキリ種群のもののようですが、詳しい類縁関係などについては原記載にある情報だけでは判断が難しそうです。このネキダリスの仲間ですが、国外に目を移せば意外と未解決の課題が多いグループです。冒頭に書いた台湾でも2種の未記録種が採集されています。
 まもなく、日本甲虫学会の役員選挙が行われます。さやばねN.S.14号に掲載された選挙管理委員会のお知らせによれば、「8月公示、9月開票を予定」とありますから、9月半ばあたりには第3期(2015~2016年)の新会長と新評議員が決まっていることになります。どうも役員に利権がないせいか、昆虫関連学会の選挙は有権者(会員)意識が低く、投票率も決して高くありません。当学会の選挙でも前回の投票率は30%余りにすぎませんでした。しかし、学会運営の舵取りを担う会長と評議員を決める大切な選挙です。前回は投票を見送った会員の皆様も、今回の選挙は必ずご投票くださいますようよろしくお願いします。
 余計なことかもしれませんが、最後に一言。私は今年いっぱいで2期目の会長を務め終えます。会長は再選して2期続けることができますが、3期は規則により禁じられています。次の選挙では、名誉会員を除く会員のなかで、唯一私だけに被選挙権がありません。間違っても投票用紙に新里の名前を書かないようにしてください。無効票となってしまいます。

2014年7月9日
日本甲虫学会会長 新里 達也

「新しい年を迎えて」

 2014年を迎え、甲虫研究者の皆様は新たに、研究の抱負や採集の計画を立てられていることと思います。昨年は国内外で採集成果は不作の話をよく耳にしましたが、今年はどうなることでしょうか。さらに昨年は、研究成果の方もいまひとつ振るわなかったようです。本学会の欧文誌では、この10年のうちで掲載論文数が最も少なかったように思います。いずれにしても今年は、大きな成果が上がる年になればと願っています。
 年をとると何事にもあまり感動しなくなるものです。若い頃はそのようなことは決してなかったのですが、いざ自分がその年代になってみると、かつて先輩方が言われたことが身に沁みてわかります。ただ不思議なもので、虫だけは別格。この世界では昔から変わらず今も感動の連続です。採集も研究もまったく飽きることがありません。今年は、皆様とともに新発見と感動の年にしていきたいと思います。アクティブな調査活動はもちろん、その成果を欧文誌と和文誌に積極的にご投稿くださいますようよろしくお願いします。2014年は、本学会の会長職として最後の年になります。旧学会から新生学会に至る8年間という長期にわたった会長職も最後の1年となります。悔いの残らない1年にしたいという思いを込めて、年頭のご挨拶とさせていただきます。

2014年1月14日
日本甲虫学会会長 新里 達也

「秋は学会大会のシーズン」

 今年は5月に台湾,6月にコスタリカと立て続けに外国に出かけたせいで,山のように溜まった仕事の後始末に9月一杯まで追われ,夏の間はほぼ休みなしの毎日でした.それでも8月末の名古屋例会を皮切りに,9月の東京例会,大阪例会と参加して,甲虫屋仲間と楽しく語り合い,息抜きを欠かすことはありませんでした.ひと心地ついた10月初めには,札幌で大原委員長とElytraニューシリーズの打ち合わせと称して,深夜まで痛飲してまいりました.国内の虫採りはまったくできなかった今シーズンでしたが,虫屋との交遊は十分に楽しめました.
 夏の忙殺の主たる理由は,明治神宮の生物調査報告書の編纂作業でした.首都圏の真ん中に約70haの敷地を持つ明治神宮の杜は自然林のように見えますが,約100年前,当時荒れ地だった場所に植林により人工的に造られたものです.現在,樹高30mに達する鬱蒼とした常緑広葉樹林が敷地の7割以上を占めており,豊かな昆虫相を持つものと期待されますが,実は過去に一度も調査が行われたことはありませんでした.このたび明治神宮のご理解とご協力を得て,2011年夏に調査委員会を立ち上げ,1年半余りと短期間でしたが調査を行いました.甲虫類は種名が同定されたものだけで約550種.そのなかでもカミキリムシは37種が見つかり,近隣の皇居の39種に匹敵する種多様性を持つことがわかりました.明治神宮の報告書はまもなく出版されるので,皆様の目に触れる機会もあろうかと思います.少数限定のようですが,一般向けの販売も予定されています.
 このような仕事を通じていつも思うのは,地域のインベントリー調査の大切さです.地域開発から自然や昆虫を守るにも,絶滅危惧種の保全活動をするにも,地域の生物相がわかっていなければ,何もコトが進まないことが少なくありません.情報がなければ,説得力に欠けてしまいます.インベントリー調査は根気のいる仕事である一方,虫屋であればおそらく,誰にでも簡単に行うことができます.甲虫研究者の多く皆様が,ご自身の大切なフィールドの記録を残されることを期待しています.当学会では,「地域甲虫誌」という専門の刊行物シリーズも出版しています.
 さて,11月23~24日は,神奈川県厚木の東京農大で年次大会が開催されます.この大会は日本昆虫学会関東支部会の大会と共催になります.シンポジウムも甲虫類に限定せず,伊豆諸島の昆虫相をテーマに企画されました.この数年間,東京都のレッドリスト改訂にともなう調査を目的に,多くの昆虫研究者が伊豆諸島を訪れ,興味深い成果を挙げています.私も20代の若かりし頃に,足繁く同諸島に通ったものです.私的にも思い入れの深い地域であるゆえ,このシンポジウムはとても楽しみにしています.大会事務局によれば,一般公演は締め切りを前にしてほぼ予定数に達したとのこと.なかなかの盛況が予想されます.年1回の甲虫研究者仲間が全国から集う大会です.ぜひともご参加くださいますよう,よろしくお願いします.

2013年10月15日
日本甲虫学会会長 新里 達也

「ABS問題と甲虫研究者」

 今年の春の訪れは早く、東京では彼岸を待たずにソメイヨシノが開花しました。3月の うちにお花見をした記憶はないなと思っていたところ、テレビの天気予報で観測史上二番 目に早い開花だという。こういう年は寒の戻りがあるのが心配ですが、ともあれこれを書 いている現在、季節は順調に進行中です。春の訪れは虫屋にとって何よりもうれしいもの 。琉球や東南アジアに出かければ虫採りも季節なしのご時世ですが、やはり生まれ育った 土地で迎える季節の到来にまさる喜びはありません。私も今からカエデの花を掬いに行く 休日を心待ちにしています。
 ところで最近、私たち甲虫研究者にも関わる気になる動向があり、少しここで紹介させていただきます。
 生物多様性条約は皆様よくご存知かと思います。この条約には3つの基本方針があって、その一つに「遺伝資源の取得の機会(Access)及びその利用から生ずる利益(Benefit)の公正かつ衡平な配分(Sharing)」というものがあります。頭文字をとってABSと呼ばれています。利用者と提供国の利害が衝突するだけに、ABS問題などとも呼ばれています。 2010年秋に名古屋で開催された第10回目の同条約締約国会議(COP10)では、このABSの名古屋議定書が発効されました。どういうものかというと、遺伝子資源の利用者は提供国の「事前の情報に基づく同意(PIC)」を取得し、提供者と「相互に合意する条件(MAT)」を設定したうえで、遺伝資源を利用する、という国際間のルールが決められました。
 これにともない、提供国はPIC(事前の情報に基づく同意)に関する根拠法を任意に整備し、PIC証明書を発行することになりました。遺伝子資源の利用者は企業や個人であるにしても、遺伝子資源自体は国に帰属しますから、すべての国がその提供国になる可能性があります。ただし任意とあるように、加盟国は必ずしも法整備をする義務はありません。 議定書発行以降、日本は動向を静観していたかのように見えましたが、昨年あたりから俄かにこの問題が表面化し始めました。すなわち、PIC根拠法の整備を準備していて、早ければこの夏に法律が公布されるらしいということです。もちろん、日本だけではない。生物多様性条約の加盟国の多くで、今後PIC根拠法が整備される動向は、ほぼ間違いないものと思われます。なお現在まで、PIC根拠法かほぼ同じ規制を行使する法律を持つ国は、世界で20カ国あまりがあります。
 以上のようなことが、私たち甲虫研究者にどのような影響を及ぼすのか?遺伝子解析をしているわけでもないので自分は関係ないと思ったら、それは大間違いです。私たちは国内外で甲虫類の標本採集をしています。標本は持ち帰りマウントして各人標本箱に保管されていると思いますが、この標本が遺伝子資源の情報を保有しているのはおわかりですね。もちろんほとんどの方々は、その利用目的で保有しているつもりではないでしょう。しかし、それが資源利用を目的とした人の手に渡ったとしたら、立派な情報資源になります。ということは、皆さんの採集行為とその結果の標本が、PIC根拠法の規制対象になる可能性が十分にありえるということです。
 今年の1月に開催された日本分類学会連合の総会の席でもこの問題が提起され、研究者たちがいろめき立ち、会場のあちこちで憂慮のため息が漏れました。生物標本という研究材料の入手や流通に不便があるというのはとても悩ましいことです。PIC根拠法の国内法がどのような形に落着するのか、今後は動向を見守るだけでなく、本学会も関連学会とも連携して積極的な発言をしていくつもりでいます。

2013年4月6日
日本甲虫学会会長 新里達也

「第2期を迎えて」

 日本甲虫学会は2013年1月1日より第2期を迎えました。
 昨年9月に実施した会長と評議員の改選により、私が会長に再選され、また評議員で若干の新旧交代がありました。もっとも、委員長と運営幹事は第1期からほとんどメンバー交代はなく、基本的には前期の人材とノウハウをそのまま引き継ぐことになりました。1期2年ですから、2014年末までこの体制で運営を行うことになります。新しい年とこの第2期を迎えるにあたり、学会の発展のためにさらに一層の努力を尽くしていたいと心新たにしています。
 前期の2年間を振り返ると、新生学会としてはまずは順調な滑り出しではなかったかと思います。ここではその成果を繰り返し述べませんが、合併時に掲げましたように、旧両学会の伝統を重んじつつ、少しずつではありますが、着実な発展を達成してきたのではないでしょうか。
 さて、昨年の豊橋大会に開催した総会では重要な議案をご承認いただきました。その一つが学会賞の設立で、現在検討委員会を設置してその内容を協議しているところです。2013年大会には第1回目の表彰を行うことをお約束していますので、規程の検討や受賞者の選好など関係者には忙しい1年となりそうです。
 さらに、欧文誌の無償制限ページを10ページから16ページに増やし、超過ページチャージを1ページ当たり7,000円から6,000円に下げることとしました。欧文誌の投稿規程を変更し、こちらについてはElytra, New Seriesの2巻2号で改訂を行いました。これにより、従来に比べて長文の論文投稿に際して著者の費用負担が軽減されます。この背景には、合併2年目にして学会の財政収支が黒字に転じたことが大きく響いております。
 もちろんいくばくかの課題はないわけではありません。しかし、それらの課題を解決しつつ、着実に改革を進めてまいりたいと思います。2013年も日本甲虫学会に変わらぬご支援のほど、よろしくお願い申しあげます。

2013年1月1日
日本甲虫学会会長 新里 達也

「採集シーズン、そして選挙を控えて」

 盛夏を控え梅雨空が続きますが、甲虫類が1年で最もたくさん採れるのが、おそらくこの季節ではないでしょうか。私の周りでも、しきりと興味深い情報が飛び交い、週末の予定につい心が動かされてしまいます。
 自宅近くの多摩地域(東京都)でも、当地では珍しいトラフホソバネカミキリやキイロミヤマカミキリが採集されたというニュースを聞き、驚かされています。両種とも奥多摩と高尾山から数例しか記録のなかったもので、移入個体ではないかという指摘もありますが、私たちが気付いていなかっただけで、おそらく昔から生息していたのではないでしょうか。身近なフィールでも、新しい発見がいくらでもある証だと思っています。
 私自身は、4月半ばから対馬・台湾・ラオスをいずれも短期間ながら廻り、採集調査では充実した前半期を過ごしました。そのぶん論文書きがなおざりにされていますが、やはりシーズン中は虫採りを最優先にしておくことが、日々のストレス回避に結び付くようです。おかげで、今のところ心身ともに絶好調の年という気がしています。事業面の完全合併を果たして2年目に入る当学会も、ほぼ順調に、本年度の事業計画が消化されつつあります。東京、名古屋、大阪で各1回の例会が終了し、つい先頃には、越佐昆虫同好会のご支援を得ながら、新潟県佐渡で採集例会が無事開催されました。これらについては、当ホームページならびに和文誌「さやばねニューシリーズ」で、追ってご紹介していきたいと思います。
 ふたつの雑誌は、おおむね順調な出版実績をあげつつあります。「さやばねニューシリーズ」は毎号40ページを超え、興味深い論文や短報が数多く掲載されています。欧文誌「Elytra, New Series」は、第1巻2号が年を跨いだ形で2012年の発行になりご迷惑をおかけしましたが、新しい編集体制と慎重な査読手続きに遅延理由がありましたが、現在はほぼ解決しています。また、旧両学会のバックナンバーのアーカイヴ化作業も順調に進んでいます。今後は古い号から順番に当ホームページ上で公開して、自由にダウンロードできる仕組みを構築していきます。
 ところで、日本甲虫学会第2期の選挙公告が、8月初めには公示されることになります。前回と同様に会長と評議員の選挙となります。第1期では、旧両学会の役員・幹事をおおむね引き継いだ形で評議員構成となりましたが、新学会の運営も軌道に乗り始める、来る第2期では、組織に新しい風を送りこむべく若干の新旧交代があってもよいかと、私は個人的に思っています。いかがなものでしょうか。
 いずれにしても、学会の運営を委ねる役員を決める重要な選挙であります。前回は50%超の投票率をいただきましたが、今回もそれを上回る結果になるよう、会員の皆様の積極的なご参加をどうぞよろしくお願いいたします。

2012年6月21日
日本甲虫学会会長 新里達也

「新年ごあいさつ」

 2012年の新しい年を迎え、日本甲虫学会もまた一つ新たな歴史を刻むことになります。二つの甲虫関連学会の合併から今年は3年目にあたり、あらゆる面からこれまでの努力が実る1年になるものと期待しています。2011年は、真価が試される年と位置づけてきましたが、学会活動に新たな試みを加えたにもかかわらず、例会・大会などの行事、欧文・和文誌面の刷新、ホームページの充実と、ほぼすべての活動を円滑に進めることができました。ひとえに会員諸兄の力強いご支援の賜物であると、深く感謝申し上げます。一方で昨年は、3月11日の東日本大震災以降、原子力発電所事故、本土を直撃した台風など多くの天災に見舞われ、苦難の1年でもありました。とくに東日本在住の会員は直接または間接のご心労が多く、研究や採集活動のモチベーションも低迷されたものと思われます。採集旅行を中止されたり、研究成果をまとめきらなかったりと、満足いく活動ができなかったという話をよく耳にしました。しかしそれも心機一転、2012年は多くの皆様が、平時の活動に復帰されるものと期待しております。
 日本甲虫学会では今年、東京(3回)、名古屋(2回)および大阪(3回)の各地方例会、さらに採集例会(1回)に加えて、12月上旬には豊橋市自然史博物の年次大会と、10回に及ぶ学会の公式行事が予定されています。これらの行事は会員のみならず非会員の方も自由に参加することができます。会員の皆様は、知人・友人をお誘い合わせのうえご参加いただければ幸いです。また、欧文・和文会誌への論文・報文のご投稿もお待ちしております。
 2012年も、日本甲虫学会の活動への積極的な参画とご支援のほど、どうぞよろしくお願いします。

2012年1月1日
日本甲虫学会会長 新里達也

「真価が試される2011年を迎えて」

 日本甲虫学会は、日本鞘翅学会と(旧)日本甲虫学会が2010年1月に合併し、1年間の移行期間を経た後、本年2011年1月よりすべての会務と事業を完全に一本化するまでに至りました。「日本の甲虫学の進歩と発展」を共通の将来目標に掲げ、ここまでともに歩んでこられた会員の皆様の暖かいご理解とご支援に対して、まずは厚くお礼申し上げます。
 昨年1年の移行期間では、会長と評議員選挙を実施し、会務を執行する役員を公選により選出しました。この手続きは、すべての会員に公平で質の高いサービスが行きわたるため、また民主的な会運営を執行するために実施したもので、旧両学会では過去に行われていません。また両学会の会計を決算し一旦清算したうえで、新しい学会に財産を引き継ぐ手続きを終了しました。さらに両学会はそれぞれ伝統ある欧文誌・和文誌を発行してまいりましたが、断腸の思いでこれらすべてを終刊とし、新しい欧文誌・和文誌を創刊することにしました。すなわち2010年の年初は看板を掛け変えただけに過ぎませんでしたが、年半ばには屋台骨となる新体制が編成され、年末には財布(会計)と事業(雑誌と行事)が一つになったわけです。とにかく目まぐるしい1年でした。この移行期間は山積する合併関連の事務処理を、前半は旧両学会の役員、後半は選挙結果を受けて新しい評議員と運営幹事が精力的に取り組んでまいりました。そうして2011年を無事に迎えることができたわけです。ここに至ってもう後戻りはできなくなりましたし、ようやく将来のことが考えられる起点に立てたということになります。
 新しい学会では何が変わるのか、メリットやデメリットはあるのかという点がやはり気に掛かるところです。基本的には「財布と雑誌が一つ」になった以外にあまり大きな変化はないはずですし、もちろん混乱するような変化は避けなければなりません。その新しい学会の活動と展望についてここで概要をお話しておきたいと思います。
 学会の顔であり主要な事業である機関誌は、欧文誌「Elytra New series」が年2回、和文誌「さやばね ニューシリーズ」が年4回発行されます。名称は旧学会にあった誌名を拝借していますが、いずれも新雑誌であって1号からのスタートとなります。雑誌の誌面や表紙もデザインを刷新しました。また両機関誌とも質の高い誌面を確保するために、査読制度を導入することにしました。ただし和文誌の方では原著論文を掲載する一方、分類群の解説、研究方法の紹介、採集紀行、短報などの原稿も掲載して、幅広い会員層に愛される誌面作りを目指しています。また、不定期刊行物である特別報告や地方甲虫誌なども従来通りに企画があれば、出版・販売のお知らせを随時してまいります。原稿を投稿される著者にとって気掛かりな別刷や超過頁などの費用もより低額で利用できるように、編集作業の合理化や印刷会社との交渉のうえ、できるかぎりの配慮をしていくつもりです。なお、希望者には別刷のPDFファイル(電子版別刷)を無償で領布することも始めます。紙媒体の別刷が不要の著者には別刷代の負担がなくなります。
 学会行事である年次大会、地方例会および採集例会は合併により大きな効果が期待できます。年次大会と採集例会は従来通り年1回と同じですが、地方例会は東京(3回)、名古屋(2回)および大阪(3回)と合計すると年間8回の開催となります。もちろん会員はいずれの例会に出席することができます。ただし1月と採集のベストシーズンに当たる4~7月の土日には例会は開催されません。
 ホームページについては、開かれた学会を目指すという基本方針に沿って、会務の透明化を図り、会員に向けた多様な情報を発信し続ける媒体として、その機能の充実を図ります。学会行事に関する連絡はもちろんのこと、総会や評議員会や各委員会の報告なども随時掲載していくことになっています。実は昨年の新体制発足後に、直ちに会長任命をされた2名の副会長のうち、野村周平副会長にはこのホームページ担当の特命を受けていただきました。またもう一人、大林延夫副会長には和文誌の特命を背負っていただいております。新学会発足に当たり、和文誌とホームページの充実にとくに力を入れていこうということであります。
 会員サービスの充実ということではさらに、旧両学会から引き継がれたバックナンバーと交換図書の大きな財産が、大阪市立自然誌博物館の収蔵庫に合わせて保管され、これで図書の在庫が一括で管理できるようになります。また在庫数が少なくなった年代の古いバックナンバーから順を追ってPDFファイル化を行い、その電子媒体を会員に提供するという計画も進行中です。
 もしあえて合併のネガティヴ・チェックをするのであれば、それはやはり会費の値上げというになるのでしょうか。新会費の8,000円は旧日本鞘翅学会からは1,000円、旧日本甲虫学会からは3,000円の割高となります。ただし両学会に共通して入会されていた会員にとって合併により会費負担は5,000円下がるという点は強調させていただきたい。それでも、旧日本甲虫学会のみに入会されていた会員にとっては、やはり負担増は避けがたいのです。しかしこれまで述べてきたように、会員サービスは大きく拡充されると言う点をご理解いただき、引き続き私たちの仲間としてご登録いただくことをなにとぞお願い申し上げます。繰り返しになりますが、会費に見合う以上の会員サービスを提供していくことは最優先の使命であり、それを肝に銘じて学会運営の舵取りをしていく決意でおります。 このような学会の運営と事業が潤沢に進むその先には、国際的に高く評価を受ける日本甲虫学会としてその地位を不動のものにするべく、会のさらなる発展を実現していかなければなりません。当学会は現在においてもすでにアジア最大の甲虫関連学会であることに違いはありませんが、経済的にも文化的にも台頭する中国を初めとする近隣諸国でも早晩のうちに類似の団体が設立され、その急速な隆盛も予測されます。そのようななか、アジアを中心とする諸外国の甲虫学研究者とも高いコミュニケーションを保ちつつ、従来の活動の延長線上からさらに一段高いレベルの活動展開を模索していく必要があります。またそれは国内外からも強く期待されているものと信じています。目標は高く超えなければならないハードルも低くありませんが、当学会が引き続き高い求心力を持続できるように、会員ひとり一人の力を合わせて邁進していきたいと考えております。
 昨年夏に会長を拝命したものの、俗に言う名誉職という意識をもてる余裕などは微塵もなく、その年の後半を一気に駆け抜けてきたというのが正直な今の気持ちです。おそらく2年ある任期も、同じように気が抜けない日々が待ち受けているであろうと覚悟しております。そして学会合併の真価が試されるのは、待ったなしでこの2011年からということになります。新生した日本甲虫学会の活力ある発展のために、皆様方の厚いご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。

2011年1月1日
日本甲虫学会会長 新里 達也